「就業判定」のしくみについて

健康診断の結果が届いたら、人事担当者は何をすればいいのか?——「就業判定」のしくみを知っておこう


はじめに

毎年、定期健康診断の季節が終わると、人事担当者のもとには従業員の健診結果が届きます。「異常なし」の方もいれば、「要再検査」「要治療」といった所見がついている方もいるでしょう。

そこで多くの人事担当者が戸惑うのが、「この結果を受けて、会社として何をすべきか?」という点です。特に、産業医を選任したことがない企業では、健診結果の"読み方"や"次のアクション"が不明瞭なまま、結果を引き出しの中にしまい込んでしまうことも少なくありません。

今回は、産業医が行う「就業判定」のしくみと、実務上で押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。


健診結果は「医療機関の判定」で終わりではない

健康診断を受けた医療機関からは、「要経過観察」「要精密検査」「要医療」といったコメントが記載された結果票が届きます。これはあくまでも医療機関側の所見であり、「その従業員が今の仕事をどこまで続けられるか」という観点とは、少し切り口が異なります。

会社が本来行うべきなのは、健診結果をもとに「この人は現在の業務をそのまま続けて問題がないか」を確認するプロセスです。これを就業判定と呼びます。

50人以上の従業員がいる事業場では、産業医の選任が法律で義務付けられており、この就業判定は産業医が中心となって行います。しかし、産業医を選任したことがないという企業でも、判定のしくみを知っておくことは、適切な対応を取るうえで非常に重要です。


就業判定は「3段階」で考える

産業医が健診結果をもとに下す就業判定は、大きく以下の3段階に分類されます。

① 通常勤務可(就業可) 現在の業務をそのまま継続しても問題がないと判断された状態です。健診で多少の数値異常があっても、業務への影響がなければこの判定になります。実際のところ、有所見者のほとんどはここに分類されます。

② 就業制限 業務の一部に制限を設けることで、就業継続が可能と判断された状態です。「残業禁止」「出張禁止」「高所作業禁止」「重量物の取り扱い禁止」など、具体的な制限内容が産業医から意見書という形で示されます。

③ 要休業 現時点では就業自体が困難であり、休業が必要と判断された状態です。

この3段階の中で、実務上最も重要になるのが「就業制限」の区分です。


「要休業」は現実にはほとんどいない

「要休業」という判定を聞くと、健診でそのような人が出てしまうのではないかと心配になるかもしれません。しかし実際には、定期健康診断の結果から産業医が「要休業」と判定するケースは非常にまれです。

なぜなら、健康診断は基本的に自覚症状のない方が受けるものであり、そこで発見される異常のほとんどは「経過観察」や「生活習慣の改善」が必要なレベルにとどまるからです。明らかに就業に支障をきたすほどの重篤な状態が健診で初めて発覚するということは、現実的にはほとんどありません。

もちろん、ゼロではありません。たとえば健診で高度の高血圧が発見され、かつ業務が重労働を伴う場合には、一時的な休業を勧告することがあります。ただしそのようなケースでも、まず医療機関での治療を優先し、状態が落ち着いてから就業制限の形で復帰を認めるというプロセスをたどることが大半です。

つまり、人事担当者が実務上最も多く直面するのは、「要休業」ではなく「就業制限」のケースです。


「就業制限」になる具体的なケース

では、産業医が「就業制限」を判断するのは、どのような場合でしょうか。以下にいくつかの典型的な例をご紹介します。

【高血圧:収縮期血圧180mmHg以上】 健診で収縮期血圧が180mmHg以上(または拡張期血圧110mmHg以上)の値が確認された場合、過重労働の有無にかかわらず、就業制限を積極的に検討する必要があります。この水準は脳卒中や心筋梗塞のリスクが急激に高まる閾値とされており、まず医療機関での治療開始を促しつつ、時間外労働の制限や身体的負荷の高い業務からの一時的な外しを検討します。160mmHg台であれば業務内容や治療状況によって判断が分かれますが、180mmHg以上は「様子を見る」ではなく「速やかに動く」水準です。

【心疾患:心筋梗塞の既往・心不全】 一口に「心疾患」といっても、就業への影響は診断名や重症度によって大きく異なります。たとえば不整脈は種類の幅が非常に広く、業務に支障のない心房性期外収縮のようなものから、致死的なリスクを伴うものまであります。診断名だけで制限の是非を判断することは適切ではありません。

実務上、就業制限の検討が必要になりやすいのは、心筋梗塞の既往がある方や心不全の状態にある方です。こうした方には、重量物の取り扱いや身体的負荷の高い作業(長距離の歩行や階段昇降を繰り返す業務なども含む)を避けるよう、産業医が意見を出すことがあります。

【腰椎疾患:治療状況と業務内容で判断が変わる】 腰椎ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症がある従業員への就業制限は、「診断があるから一律禁止」ではなく、現在治療中かどうか・症状が安定しているかどうかが重要な判断軸になります。治療中で症状が管理されている場合は、全面禁止よりも部分的な制限にとどめることが多いです。

重量物の取り扱い制限については、男女で目安が異なる点にも留意が必要です。継続作業では男性20kg・女性15kgを超える重量物は取り扱わせないことが原則とされており、腰椎疾患がある場合はこれよりさらに低い水準での制限が妥当な場合もあります。産業医・主治医の意見を確認しながら個別に判断することが求められます。

【貧血:Hb値を目安に就業制限の要否を判断する】 健診で貧血(低ヘモグロビン値)が指摘された場合、まず取るべき対応は医療機関での精査と、鉄欠乏性貧血であれば鉄剤による治療の開始です。就業制限より治療が先、というのが基本的な考え方です。

就業制限の目安としては、Hb値がおおむね10g/dL未満になると注意が必要な水準とされており、めまいや息切れが生じやすくなります。この水準では高所作業・足場・脚立を使う業務のリスクが高まるため、制限の対象となります。Hbが8g/dL未満の場合は、身体的負荷全般を避けることを検討すべき水準です。逆に、治療によってHbが基準値内に戻れば、制限を解除できるケースがほとんどです。


就業判定の結果、会社はどう動くか

産業医から就業制限の意見書が出た場合、会社(人事・上司)はその内容を踏まえて、実際の業務配置や労働時間を調整する必要があります。

ここで大切なのは、産業医の意見はあくまで「意見」であり、最終的な就業上の措置を決定するのは事業者(会社)であるという点です。ただし、合理的な理由なく産業医の意見を無視することは、安全配慮義務の観点から問題になり得ますので、基本的には産業医の意見に沿った対応を取ることが求められます。

また、就業制限の内容は従業員本人にも適切に伝える必要があります。「なぜこのような制限がかかっているのか」を本人が理解していないと、本人自身が無理をして体調を悪化させてしまうことにもなりかねません。


会社が健診において果たすべきアクション

就業判定のしくみを理解したうえで、あらためて会社側の対応を整理しておきましょう。労働安全衛生法上、企業には以下の4つのアクションが求められています。

① 健康診断を受診させること(義務) 常時使用する労働者に対して、年1回の定期健康診断を実施することは会社の法的義務です。受診させなかった場合、罰則の対象となります。パートタイム労働者であっても、一定の要件(週所定労働時間が正社員の3/4以上など)を満たす場合は対象となります。

② 有所見者について医師(産業医)に意見聴取すること(義務) 有所見の従業員については、医師または産業医に対して就業上の措置に関する意見を聴取することが義務付けられています。結果を受け取って「本人に通知して終わり」では不十分です。この意見聴取こそが、本記事で解説してきた就業判定の実質的な中身にあたります。

③ 従業員に対して受診勧奨をすること(努力義務) 健診で「要精密検査」「要医療」と判定された従業員に対して、医療機関への受診を促すことは会社の努力義務とされています。適切な受診・治療が行われれば就業制限が不要になるケースも多く、放置せず積極的に声をかけることが重要です。

④ 定期健康診断結果報告書を労働基準監督署へ提出すること(義務) 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、定期健康診断の実施後に「定期健康診断結果報告書」を所轄の労働基準監督署へ提出することが義務付けられています。健診を実施して終わりではなく、行政への報告までが一連の対応として求められている点を押さえておきましょう。


まとめ

健康診断の就業判定は、「通常勤務可」「就業制限」「要休業」の3段階で行われます。実務上は「要休業」はほとんど発生せず、「就業制限」のケースをいかに適切に対処するかが人事担当者の腕の見せどころです。

産業医を選任したことがない企業も、従業員数が50人を超えた段階では選任が義務となります。それ以前の段階であっても、地域の産業保健センターや嘱託産業医サービスを活用することで、専門家のサポートを受けながら健診後のフォローアップを適切に行うことができます。

「健診結果が届いたけど、どうすればいいかわからない」と感じたときこそ、産業医への相談を検討するタイミングです。ぜひ、お気軽にご連絡ください。

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