休復職① 休職時
メンタル不調者の休職対応|診断書が出たら企業・人事は何をすべきか【産業医が解説】
従業員から「休職を要する」という診断書が提出されたとき、企業・人事はどう動くべきか。産業医の実務経験から、休職時に取るべき初期対応と、トラブルを防ぐ説明の仕方を解説します。
この記事の要点
- 「休職を要する」診断書が出たら、即時(遅くとも翌日から)休ませるのが原則。引継ぎや人手を理由に先延ばしにするのはリスクが高い
- 産業医面談を設定しても、休職要の診断書がある以上、判断が覆ることはまずない
- 休職時には、担当者の裁量で情報を取捨選択せず、全従業員に一律の情報パッケージを渡すことがトラブル防止につながる
本記事は休復職対応シリーズの ①休職時 です。
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増え続けるメンタル不調による休職
厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、仕事上の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害を発症し、労災と認定された人は 1,055人で、前年度に比べて172人増加しました。精神障害による労災認定は6年連続で過去最多となり、初めて1,000件を超えています(うち自殺・自殺未遂は88件)。
認定件数は特定の年齢・性別・職種に限られるものではなく(請求・決定件数では40〜49歳が最も多い層ですが)、幅広い層で発生しているのが実情です。メンタル不調は 「誰にでも起こり得る」 ものと捉えておくのが現実的でしょう。
実際に産業医として活動する中でも、担当企業から受ける相談の多くはメンタル対応に関するものです。休復職時の対応については書籍・厚生労働省や労働局のHP・セミナーなど情報源は多数ありますが、本シリーズでは私が実際に実践・助言している対応を、現場目線で整理してお伝えします。
前提:休職は「突然」ではない
多くの企業にとって、休職者は「突然診断書を提出され、緊急で対応しなければならないもの」という印象が強いようです。しかし実際には、不調は突然発生しているわけではありません。上長・周囲による早期発見と適切なつなぎ(ラインケア)が本来は重要です。
ただし、ラインケアは本記事の主題ではないため、ここでは詳述を省きます。
「休職を要する」診断書が出たときの対応
結論:即時(遅くとも翌日から)休ませる以外の選択肢はありません。
主治医による「休職を要する」診断書が提出されたとき、企業からはしばしば次のような要望が寄せられます。
- 引継ぎが必要なので、それが終わるまでは休ませられない
- 代わりに対応できる人材がいない、人手が足りない
- 本当に休む必要がある状況なのか、産業医に判断してほしい
会社側のお気持ちは理解できます。しかし診断書が出ているということは、専門家から 「これ以上働かせると危険」 と警告を受けている状況です。診断書の提出以降に発生・悪化した健康障害については、高い確率で 会社の責任・安全配慮義務違反 と判断されます。
万が一、自殺などの最悪の事態に至った場合、数千万〜億単位の損害賠償に加え、訴訟対応による担当者の負担、企業イメージの低下など、さまざまな不利益を被りかねません。「数日だけなら大丈夫」ということはありません。
産業医面談で「判断を覆す」ことはできない
「産業医に判断してほしい」という要望についてですが、産業医の立場からは、面談を設定したところで結論はまず変わりません。
休職要の診断書があるにもかかわらず産業医が「休職は不要」と判断することは、「主治医(専門家)の意見を否定し」「今後、健康障害が悪化するリスクはない」と保証することとほぼ同義です。
悪化リスクがゼロだと保証することは誰にもできません。それができない以上、産業医が「休職不要」と判断しても、会社の責任が軽くなるわけではなく、産業医が会社責任を一緒に背負うだけの結果になります。さらに、産業医自身が訴えられるリスクも生じます。
引継ぎ問題への根本的な対処
引継ぎ不足は確かに重大な課題です。しかし前述のとおり、メンタル不調は年齢・性別・職種・職責に依らず誰にでも起こり得ます。
特定の従業員が突然抜けても事業運営に影響が出ないよう、各従業員の業務の可視化や情報共有体制の整備を平時から進めておくことが、本質的な対応となります。これは休職対応に限らず、退職・異動・急病など、あらゆる人員リスクへの備えにもなります。
休職時に従業員へ説明すべき内容
メンタル不調時には集中力・判断力・思考力が低下しやすく、面談でも「どうしたらいいかわからない」「決められない」というコメントが出ることが少なくありません。
そのような状態の方に、手続きや就業規則の詳細まで説明することを躊躇するケースも理解できます。ただし、担当者の判断で情報を取捨選択したり、人によって伝える内容を変えたりすることは、休職中・復職時のトラブルを招くリスクがあり、注意が必要です。
推奨:一律の情報パッケージを用意する
雇用形態別などにフォルダへ必要書類をまとめておき、休職時には全員へ一律に同じものを渡す形を推奨しています。可能であれば、以下も追加で作成しておくとより望ましいです。
- フォルダ内の内容一覧ファイル(Word など)
- すぐに対応が必要な最低限の内容を説明する資料(PowerPoint など)
用意しておくべき情報の例
- 就業規則の該当部分(特に 休職可能期間 の明示)
- 傷病手当金等の手続き方法
- 休職中の社会保険料の取り扱い・支払いについて
- 休職中の会社側への報告書様式と報告頻度
- 会社として復職可能と判断する基準(主治医への共有も推奨)
- 復職時の手続き方法・書類の提出先・会社側の準備期間(例:復職希望日の少なくとも2週間前までに提出、など就業規則への明記を推奨)
- 復職時に提出する主治医意見書の様式
これらの整備については、ご依頼いただければサポートさせていただきます。
「聞いていない」を防ぐ伝え方
トラブルの原因の多くは 「そんなこと聞いていない、説明されていない」 にあります。
全内容を休職時に説明するのは負担が大きいにせよ、資料を渡して概要を伝えたうえで、「重要な情報が入っているので、余裕のあるときに確認してください」 と一言添えるだけで、「聞いていない」と言われる状況はかなり避けられます。
補足:診断書の病名・症状名の読み方
※ この項目は補足情報です。読み飛ばしても問題ありません。
メンタル不調の診断書には「うつ病」「うつ症状」「抑うつ症状」「適応障害」など、さまざまな記載があります。このうち**病名として定義されているのは「うつ病」と「適応障害」**で、「うつ症状」「抑うつ症状」は状態像(症状)を指す表現です。
本来、診断書には診断名(病名)を記載すべきですが、病名だけで重症度を判断されることを懸念し、あえて症状名にとどめる医師もいます。また、できるだけ軽く受け取られるよう、誤りでない範囲で表現を調整するケースもあります。
同じ病名でも重症度には大きな幅があり、治療の有無が重症度を左右するものでもありません。
会社側がこれらの事情を踏まえて真偽や程度を判断することは困難ですし、そこに労力を割く必要もありません。会社側としては、あくまでも 「業務遂行ができるか」「勤怠に乱れがないか」「社内秩序を維持できるか」 といった事例性の観点から判断することを推奨しています。
まとめ
- 「休職を要する」診断書が出たら、即時休職が原則。引継ぎや人手を理由にした先延ばしは安全配慮義務違反のリスクが高い
- 産業医面談で休職判断が覆ることはまずない
- 休職時の説明は 一律の情報パッケージ で行い、「聞いていない」を防ぐ
- 引継ぎリスクは、平時の業務可視化・情報共有で備えるのが本質
次回は ②休職中 の対応について解説します。
休職・復職対応の体制づくり(情報パッケージの整備、就業規則への反映、産業医面談の運用など)でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 診断書が出ても、引継ぎが終わるまで数日だけ働いてもらうことはできますか? A. 推奨できません。診断書提出後に健康障害が発生・悪化した場合、会社の安全配慮義務違反と判断される可能性が高くなります。「数日なら大丈夫」という安全な期間は存在しません。
Q. 本当に休職が必要なのか、産業医に判断してもらえますか? A. 休職を要する診断書がある以上、産業医が「休職不要」と判断することはまずありません。それは主治医の意見を否定し、悪化リスクがないと保証することに等しく、現実的ではないためです。
Q. 休職時に、従業員へどこまで説明すればよいですか? A. 就業規則の該当部分、傷病手当金の手続き、社会保険料の取り扱い、復職の判断基準・手続きなどを、全員一律の資料として渡すことを推奨します。担当者の裁量で内容を変えると、後のトラブルの原因になります。
