休復職③ 復職時
復職時の対応|診断書・産業医面談・復職可否の判断を産業医が解説
メンタル不調で休職していた社員が職場復帰する際、会社・人事は何を準備し、どう判断すればよいのか。診断書と主治医意見書の扱い、復職時の産業医面談、復職可否の判断基準と関連判例まで、産業医の実務経験から解説します。
この記事の要点
- 復職は「復職可」の診断書がトリガー。ただし診断書の記載内容には幅があり、会社で「主治医意見書」の様式を用意しておくとよい
- 復職直後は 本来業務の70〜80%程度に負荷を抑え、体調・生活リズムを見ながら段階的に戻すのが原則
- 主治医の意見は尊重・検討すべきだが、全面的に従う法的義務まではない。復職可否の最終判断主体は会社
- 復職時の 産業医面談は最も有用性が高い。本人・医療側・会社側の認識の乖離を埋めることが最大の目的
本記事は休復職対応シリーズの ③復職時 です。前回の②休職中の続きとなります。
復職対応の流れ ―「復職可」の診断書がトリガー
復職は、多くの場合 「主治医から復職可とする診断書が提出されること」 がトリガーになります。一般的な流れは以下のとおりです。
- 従業員が診断書と復職願を提出する
- (状況に応じて)産業医面談を実施する
- 集まった情報をもとに、会社が復職可否を判断する
復職対応の基本原則
絶対的な正解があるわけではありませんが、産業医・会社・その他関係者がそれぞれ共有しておくべき基本的な考え方を以下にまとめます。
- 復職とは 「仕事をするために職場復帰すること」 である
- 復職後1か月程度は、原則として出社・フルタイム勤務とする
- 元の職場・元の業務内容への復帰が原則
- 当初はフルタイムを超える働き方は推奨しない(残業・休日出勤・深夜勤務の禁止などの就業制限を設ける)
- 特にメンタル不調の場合、復職直後から100%の業務負荷に対応できることはまずない。本来業務の70〜80%程度に留めることが推奨される
- 責任者業務・プロジェクトマネジメント・高度な判断を要する業務など、質的負荷が高いものは、復職数か月後に回復状況を見ながら段階的に戻すことが望ましい
- 体調の安定・生活リズムの安定をバロメーターとして、徐々に業務負荷を高め、それに合わせて就業制限も段階的に緩和する
- 復職後3か月程度は、再発・再燃リスクに特に注意が必要
診断書と主治医意見書
主治医からの診断書は必須書類ですが、記載内容には大きな幅があります。注意点まで丁寧に記述されているものもあれば、「何月何日から復職可能」とだけ書かれているものまでさまざまです。
判断材料は多くて困ることはほぼないため、会社側で 「主治医意見書」の様式を作成し、そこに記載してもらう形を推奨します。厚生労働省の 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」 には、主治医への情報提供を依頼する様式が示されています。これをベースに、自社の事情に応じて加筆修正しておくとよいでしょう。
診断書の指示内容にどこまで従うべきか
診断書には「配置転換すること」「時短勤務から開始すること」「毎日テレワークならOK」など、会社側として容易でない対応を求める記載も少なくありません。主治医の意見は尊重し検討する必要がありますが、全面的に従う義務まではありません。
復職可能日についても同様です。「8月1日から復帰可能」は「8月1日に復帰させなければならない」ではなく、「8月1日以降なら復帰できる」 と解釈して問題ありません。
一方で、「診断書を出せば異動の希望が通る」という前例ができてしまうことも問題になり得ます。自社の規程を踏まえ、対応できること・できないことをあらかじめ整理しておくことが重要です。
なお、安全配慮義務の観点から、再発・再燃防止のために配置や業務内容の変更など、柔軟な対応が必要になるケースもあります。特に職種を限定せずに雇用している社員については、片山組事件(最高裁 平成10年4月9日判決・労判736号15頁)が示すとおり、元の業務が十分にできない場合でも、配置可能な他業務での復帰を検討する余地が求められます。
復職可否の判断と「治癒」の考え方
復職可否を判断するうえで、「どの状態になれば復職を認めるべきか(休職事由が消滅したといえるか)」は実務上の悩みどころです。ここは過去の裁判例の考え方が参考になります。
休職事由の消滅(いわゆる「治癒」)は、原則として 従前の職務を通常程度に行える状態に回復していることを指します。ただし、裁判例の中には、より柔軟な判断を示すものもあります。
- 北産機工事件(札幌地判平成11年9月21日・労判769号20頁)では、休職期間満了時に完全に回復していなくても、2〜3か月程度で通常業務に復帰できる見込みがあれば、休職事由が消滅したと判断されました
- 綜企画設計事件(東京地判平成28年9月28日・労判1189号84頁)でも、休職事由の消滅とは従前職務を通常程度に行える状態が基本としつつ、相当の期間内(おおむね数か月)に通常業務を遂行できる程度まで回復すると見込める場合を含むという考え方が示されています
つまり、「復職時点で100%回復していなければ即・自然退職(解雇)」という運用は、法的リスクを伴います。復職基準を過度に厳格にすると、後に自然退職や解雇が無効と判断されるおそれがある、という点は押さえておくべきでしょう。
復職可否の判断軸は、あくまで 勤怠の安定と業務遂行能力(事例性)、そして相当期間内の回復見込みに置くのが実務的です。
復職時の産業医面談
復職時の面談が最も有用な理由
産業医の立場から見て、復職時の面談は、各種の面談の中で最も有用性が高いと考えています。
復職時やその後の対応では、「本人」「医療側」「会社側」の認識に大きな乖離が生じやすく、それがトラブルの原因になることが少なくありません。復職時に産業医面談を行う最大の目的は、この認識の乖離を最小化することにあります。
主治医が産業保健にも精通しており、復職後の注意点や再発リスクを本人へ説明済みであれば理想的ですが、そうでない場合は、産業医から想定される流れや注意点を説明することも重要な役割になります。
面談前に共有してほしい情報
生活記録表・診断書・お薬手帳は、事前情報として特に重要です。あわせて、本人との面談だけでは得られない情報も、可能な限り共有いただきたいところです。具体的には以下が挙げられます。
- 休職可能期間の残日数
- 会社側の配置・業務内容についての準備や説明状況
- 会社側が抱えている困りごと
- 直属上長からのコメントや、復職後の配慮予定
面談後の対応と「復職判定委員会」
面談後は 「産業医意見書」 を作成し、会社側へ提出します。ただし、最終的な判断者はあくまで会社です。
復職可能と判断した場合は、復職時の配慮事項やその後の業務調整について関係者間で共有し、本人と上長の定期面談の設定、人事など間接部門からの定期フォローを行うことが望ましいです。
また、認識の乖離を防ぐために、関係者が集まって判断する 「復職判定委員会」 の体制は非常に有効です。
事前準備と再休職基準の整理
「復職可能」の診断書が突然提出されても慌てないよう、以下を事前に進めておくことを推奨します。
- 会社全体のルールとして 「復職可能な基準・目安」 を整備し、従業員・管理職に共有する(可能な限り主治医にも共有することを推奨)
- 休職中から定期的に報告を求め、復職準備の段階で時期・本人希望などを把握しておく(本人希望を優先するためではなく、会社の判断材料の一つとして)
- 復職時点での指導や再休職の対象となる判断基準(業務パフォーマンス・勤怠・周囲への影響など)、および休職可能期間について、本人に説明し、記録として残しておく
再発・再燃は可能な限り防ぐべきものですが、万が一に備えた準備をしておくことが、会社・従業員双方にとって重要です。
まとめ
- 復職は「復職可」の診断書がトリガー。記載内容に幅があるため、会社で主治医意見書の様式を用意しておく
- 復職直後は本来業務の70〜80%程度に抑え、段階的に負荷と就業制限を調整する
- 主治医の意見は尊重・検討するが、全面的に従う義務はない。最終判断主体は会社
- 「100%回復していなければ復職不可」という厳格運用は法的リスクを伴う(北産機工事件・綜企画設計事件)
- 復職時の産業医面談で、本人・医療側・会社側の認識の乖離を埋める
- 復職基準・再休職基準を事前に整備し、本人へ説明・記録しておく
次回は最終回 ④復職後フォロー について解説します。
復職対応の体制づくり(主治医意見書・復職基準の整備、産業医面談や復職判定委員会の運用、就業規則への反映など)でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 主治医の診断書に「配置転換」や「時短勤務」と書かれていたら、必ず従う必要がありますか?
A. 主治医の意見は尊重・検討すべきですが、全面的に従う法的義務まではありません。ただし、職種を限定しない雇用契約の場合、配置可能な他業務での復帰を検討する余地が求められること(片山組事件)には注意が必要です。自社の規程を踏まえ、対応の可否を事前に整理しておくことを推奨します。
Q. 復職直後から元どおりフルタイム・フル業務で働いてもらってよいですか?
A. 特にメンタル不調からの復職直後に100%の負荷へ対応できることはまずありません。本来業務の70〜80%程度に抑え、残業・休日出勤・深夜勤務などの就業制限を設けたうえで、体調と生活リズムの安定を見ながら段階的に戻すのが原則です。
Q. 「100%回復していないと復職させない」という運用は問題ありますか?
A. 法的リスクを伴います。裁判例では、休職満了時に完全回復していなくても、相当の期間内(おおむね数か月)に通常業務へ復帰できる見込みがあれば休職事由が消滅したと判断されたものがあります(北産機工事件・綜企画設計事件)。厳格すぎる復職基準は、自然退職や解雇が無効と判断されるおそれがあります。
Q. 復職時に産業医面談は必要ですか?
A. 強く推奨します。復職時は本人・医療側・会社側の認識が食い違いやすく、それがトラブルの原因になります。産業医面談の最大の目的は、この認識の乖離を最小化することにあります。
